書き逃げ

映画、音楽、落語など

ヒップホップに再入門しようとしたら違う世界が広がっていた。

前回、アナログがどうかとか書いておいて、主にCDで買ったアルバムの話をしたい。

一昨日の夜、久しぶりに『イーザス』を聞き直した。

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(映像は勝手に作ったもののよう。曲も勝手に使ってるってことになるか)

これ、発売された時にもかなりいいと思っていた。だからこそ聞き直そうと思ったわけだが、今回聞いたら、またちょっと聞こえ方(っていうのも変だが)が変わっていた。より面白く聞けたし、カニエ・ウェストという人がどうしてこういう音像を作ったのか、そもそもどういう音像を目指そうとしたのか、みたいなことがちょっとだけわかるようになっていたからだ。あくまでちょっとだけですよ。

 

カニエに対して俺が持っていた大まかなイメージは、「新しいパフ・ダディ」みたいなものだった。……あ、その前に書いておいたほうがいいことがあるな。

わたくしは昔、結構ヒップホップが好きで聞いておりました。2000年ぐらいまでは比較的ちゃんと追いかけていたと思う。なので黄金の90年代は知っているけど、2000年代からは全然疎い。エミネムとか聞いてないし、ジェイ・Zもそんなにピンと来なかったので聞いてない(後から追っかけて聞いて、やっぱりトラックはピンと来なかったけど、ラップは確かにこういう上手さってあるなと思ったりした)。

というような雑な聞き方をしてきた者です。

で、大雑把に「パフ・ダディよりもう少しちゃんとした人」みたいなイメージだったわけだ。

分かってなくてすいません。

そんなイメージしかなくて『イーザス』聞いたら、そりゃ意外に思うわけだ。あんなにポピュラリティーの高い音を作っていたんだから、何かないとこんな(ミニマルでインダストリアルと言ってもいい荒々しい)音を作るようにはならないだろうと思った。でも「何か転機があったんだろうな」と思いつつ、それがなんなのかはあんまり深く考えず、聞いて楽しんでいたわけだ。

ざっくりした印象を書いたが、実はそれほど「ザ・インダストリアル」な音はないアルバムだ。でも、サンプリングもその他の音も非常に尖った、耳に刺さるような音に処理されていて、インダストリアルだなあという感触を受ける。音数の少なさはLLクールJの『Radio』かと思っちゃうよね。超ミニマル。

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それから数年経ち、去年ぐらいから俺の中でまた、ヒップホップを聞こうという気運が高まってきた。そのきっかけについて詳しくは稿を改めようと思いますが、大きかったのはケンドリック・ラマー。出た! やっぱりか! という感じでしょう。

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ケンドリックのラップの(というか英語が聴き取れるわけではないからフロウの、と言ったほうがいいか)よくわからなさ、わからないけど何か特別なものがあると感じさせるところは、昔、苦心してヒップホップをわかろうとしていた頃のことも思い出したりして、ぞくぞくした。

それと、このアルバムにも関わっているカマシ・ワシントン……。

は、「スピリチュアルジャズだなあ」ぐらいでそんなにうおおすげえとまでは思わなかったんだけれど、彼もそのムーブメントの一部である(らしい)「新しいジャズ」の旗手(らしい)フライング・ロータス

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(これ、ケンドリックのラップがフィーチャーされてるしね)

こちらもいいアルバム。

 

フライング・ロータスは本当にいいと思った。素晴らしい。

(しかし、「新しいジャズ」もう一方の雄(らしい)ロバート・グラスパーはどうもピンと来なかった。昔『ブラック・レディオ』を(ちゃんと買って)聞いて「そんなに凄いか?」と思ったのだが、フライング・ロータスによって耳が更新された今ならまた違う感じで聞けるかも! と意気込んでまた聞いてみたところ、そんなに感じ方は変わらなかった。

なのに「今度は違うかも」と思ってこれも買ったりして。

こっちは何回か聞こうという気になれた。マイルスの元曲という“補助線”は、かなり強力で、面白さは増す)

 

話がずいぶんカニエから離れてしまったが、カニエが目指した音像の一つはフライング・ロータスのようなものだったのだろうと思ったわけである。ジャズがこういう音像をゲットする……というかこういう音にまで変化する時代において、強いインパクトを与えられる作品を考えた結果が『イーザス』の音だったのだろうなあと思った。

 

そしてもう一方にこういう音もあることを知った。

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 Arcaが『イーザス』にも関わっている、ということは後で知った。こちらもとても面白く新しいと思った音だ。愛聴してます。

エレクトロニカの新鋭が作ったこういう音にもカニエは反応した、というよりも危機感を抱いたのではないかと思うのだ。カニエの、そういう貪欲さや敏感さ、その元になっているであろうある種の「臆病さ」が凄いな(凄かったんだな)と、改めて『イーザス』を聞いて思った次第だ。彼のそういう凄さはアートワークやファッションなんかについてもそうなんだと思うけど、その辺は省略。

そういうわけで、今はまた比較的新しい音楽を聞きたい気持ちになっている。追っかけたい(「追っかけをしたい」じゃなく)。

 

詳しくないせいでとんちんかんなことを書いたが、恥の掻きついでにもう一つ。

今、「ヒップホップ」じゃなくて「ラップミュージック」って呼び方をしたりするのかな? あるいは「新しいヒップホップ」とか「ニューラップ」とかでもいいんだけど……。検索をしたところ、そんな概念を提唱しているページは見つからなかった。

(追伸。思い切り見つかったし、俺はこれを読んでいた。その上で完全に忘れいていた。怖いけど、こういうことってあるんだな。

ro69.jp

気をつけたいけど、どう気をつけたらいいかわからん……)

 

何が言いたいかというと、カニエもケンドリックも、トラックの“新しい部分”はあんまりヒップホップじゃないと思ったのだ。そういうところはエレクトロニカだったり「新しいジャズ」が担っている。ラップは乗っているけどトラックはヒップホップであることをやめてしまった曲がもう一大勢力になっていて、ジャンルとして確立しよう、「ラップミュージック」と呼ぼうみたいな話になってるんじゃないかと、かように想像したわけです。「ヘビーロック」とは別の流れのものでね。