俺たちの横綱
決勝進出決定までは見て、タカマツペアの金メダルを見た後に寝て起きたら吉田沙保里選手が負けていた。残念。
スポーツはどちらかというと好きではない方なのだが、オリンピックは見はじめたらついつい見てしまった。特に3階級全員金メダルしかも全員逆転勝利みたいなことが起きてしまうと、これは見ないわけにはいくまい。凡人ゆえに。
五輪という超人たちの饗宴&競演の中でも、吉田選手については特別さを感じざるを得ない。スポーツに全然詳しくない、五輪中継番組を観ながら振り返りVTRで知っていった俺でもひしひしと。
「ずっと吉田さんの背中に憧れてきた。かっこいいし、ああなりたい」。至学館高に入学した頃は雲の上の存在だったが、世界選手権に出場するようになるとグッと距離が縮まった。
道場の先輩、吉田らの存在も大きかった。世界の舞台で活躍する姿は「あこがれでもあり、目指す道になった」と父の則之さん(48)は語る。
若い選手の目標になり、さらに支えにもなっていたということで、それは登坂選手のこんな反応からもわかる。
【レスリング】吉田の敗戦に“妹分”登坂は号泣 | 東スポWeb – 東京スポーツ新聞社
それどころか、その存在の大きさは海外にまで伝わっていたのだった。
「サオリと対戦するのは長年の夢でした」と話したマルーリスは、「彼女はヒーローです。レスリング界で最も輝かしい存在の彼女と対戦できるなんて、本当に光栄なことです」と感激していた。
(ここでレスリングに詳しくないゆえに適切でない(可能性が高い)対比をしたくなったのだが…やめておく。)
ご存知の通り、吉田選手のネット上での愛称は兄貴である。「吉田ニキ」だ。俺も心の中では吉田ニキとつい呼んでしまっていることがあり、心の中で「吉田選手」と訂正している。
「霊長類最強」でありつつ、ALSOKのCMでは愉快な姿を見せてくれるし、真っ赤なドレスを着てボンドガールと並んで平常心で写真を撮られる。
選手として圧倒的に強い。強いだけではなく強いということを体現する。憧れの念を持たせ、後を追う者を多く生む。それでいて芸能仕事で「まーた、吉田ニキがwww」と言われるようなこともいとわない。
これ、昔のお相撲さんだ。大相撲部屋別対抗歌合戦とかで、今では出来ない感じのシャネルズの扮装をして(と思ったら最近、蛮勇をふるって似たことをしたアイドルグループがいたけれど)茶の間をどっと沸かせていたお相撲さんである。
「吉田沙保里選手みたいになりたいです」
「吉田選手に憧れています」
と言う人が、必ずしもレスリングをしていなくてもおかしいことではない。スポーツ選手や勝負事をしている人である必要すらないかもしれない。花見の時にドンキで買ったドレスの着用を強要される新入社員だって吉田選手の度胸を宿したいと願うはずだ。もちろん日本人である必要はなく、アメリカの少女もそう思ったわけである。
世界最高峰の選手でありながら、われわれにとって遠くない。凡俗にも必要とされる強さを示してくれる、真のピープルズチャンピオン。「我に強さを、勇気を」と願うとき、思い浮かべる存在……。かつては現人神とも見られた理想上の横綱の姿を、吉田選手に見るのである。