書き逃げ

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『正しい日 間違えた日』。実写版「やれたかも委員会」?

ホン・サンス監督の映画は今まで見たことがなかったのだが、早稲田松竹で立て続けに4本鑑賞。「正しい日 間違えた日」の画像検索結果

 

夜の浜辺でひとり』『クレアのカメラ』は途中で少し寝てしまったのだが(退屈だったからではない)、『それから』とこの『正しい日 間違えた日』はちゃんと起きていた。起きていた2本は無茶苦茶面白かった。遡って同監督の過去作も見ようと思った。

 

見た4本は全部、キム・ミニが主演(か準主演)で出ている。ホン・サンス監督と不倫関係にある女優さんである。どの作品もそれを踏まえた、私小説的な雰囲気をまとっている。性的にだらしない創作者の男、彼と不倫関係になってしまう女。どの作品もその関係を中心に据えている。

物語というほどのものはほぼないと言っていい。派手な展開もない。飯を食ったり酒を飲んだりしながら男女が会話をするシーンがほとんどで、そこで彼らの関係が少しずつ変わっていく瞬間を観客がじっと見ることになる映画だ。

最新作の『それから』ではミニマムが極まって、男(出版社の社長。ふざけた演技をしない佐藤二朗)、妻、愛人の社員、妻に不倫相手と勘違いされてとばっちりを食う新入社員(これがキム・ミニ)という4人しかほとんど映画に出てこない。そしてその4人が大抵は2人で向かい合って話し、時に3人で口論する。それだけでなぜか無茶苦茶に面白いのだ。

酔っ払った男と愛人が歩いており、「もう帰ります。明日早いので」という愛人の手を引っ張り物陰に行ったと思ったら情熱的に抱き合っている。さっき理性的なことを言っていた女が「社長は美しい」とか言い出す。佐藤二朗に。無茶苦茶おかしいけど、恋愛でとち狂うとこれぐらいのことは言う(言われる)よなと、照れ臭く反省する気持ちにもなる。

みんなそれぞれ「私は常識人ですよ」という体のことを言うのだが、それが大抵ひっくり返される。人間らしく情けなくておかしい。コント的なおかしさがある。

 


ホン・サンスとキム・ミニが初めて仕事をしたのが『正しい日 間違った日』だそうだが、キム・ミニをナンパする過程をじっくり撮っているのがすごいというか面白すぎる。とはいえ、ハメ撮りではないので、ホン・サンス自身が主役の映画監督を演じている訳ではない。

映画監督が、韓流寿司屋のカウンターで酔っ払い「可愛い!」とか臆面もなく言って徐々にキム・ミニの心を開いていく。このシーンが長回しなのだが、見ている俺の記憶を刺激するリアルさに満ちていて、とてもよかった。

「あ、この瞬間キム・ミニは心を許したな」「監督の『あなたにそう言ってもらえて嬉しい』って言葉が決め手になったな」とかはっきりわかるのが、照れ臭くて死にそうになる。同時に、おかしくてたまらずクスクス笑ってしまった。監督に感情移入したり、また逆にこういういい加減さが可愛気に繋がっているタイプの男が女性を落とすところを見て悔しかった記憶をくすぐられたりして、大いにモキモキした気持ちになる。しかも、都合そのシーンは2回あるので、楽しみも倍。

最終的に失敗したナンパと、上手くいったナンパ、どちらも見られる。「あー、あの時ああ言っておけばなー、やれたのになー」という、過去の古傷の疼きをノスタルジーに結びつけて楽しむ見方が可能……というか、ある程度の年齢の男ならそうしないではいられない映画だと思う。

キム・ミニの、大変キュートだが「絶世の美女」というのではない美人さが抜群にちょうどいい(でも多分、実物見たら美人すぎて目が潰れると思う)。そして変なタイミングでうっすら笑ったり、不意に真顔になったりする演技の的確さにも息を飲む。昔、絶対にどこかで見た気がする表情なのだ。

 
俺はついキム・ミニの方を長く見てしまったのだが、たぶん男の振る舞いの方がリアルに描けてると思う。女性も見ててモキモキするのだろうか?