書き逃げ

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『用心棒 4Kデジタルリマスター版』本当の極悪人は誰か

「午前十時の映画祭」で鑑賞。

用心棒 4Kデジタルリマスター版 

 

ブルーレイも、さらに昔のDVDも持っているし、もはや何度見たかわからない。一番見た回数が多い映画かも知れない。酔っ払って帰って来て、何か見たいなと思ったときにとりあえず見はじめたりする。もう、「お話しが」面白いから好きというのとはちょっと違っている。編集のリズムの良さ、「この瞬間のこの三船の表情最高!」みたいなポイントを味わうために見ている。そしてこの映画はいい瞬間が多く、減点ポイントも少なく、ストレスなく快適に見ていられるのである。最大のストレスはセリフがほとんど聴き取れないことだが、それはもう慣れてしまっている(ブルーレイでも、完全には聞こえない)。

ということで4Kデジタルリマスターである。セリフ、聞こえたねえ。驚いた。持っているクライテリオン版のブルーレイは、何しろアメリカ人が手がけたリストアだから、セリフの聞こえ方にはあまり関心がないだろうとは思っていたが、それと比べるともう別物である。どう考えても公開当時より聞こえるわけで、人類史上初めてこの映画のセリフがちゃんと聞こえる体験をわれわれはしているわけである。そうなるともはやオリジナルとは別物とも言える。

おかげで、音の演出もより感じとれた。卯之助(仲代達矢)が画面に現れるとすかさず風が吹くこともより意識できたし、掘り出してすぐの芋みたいな顔の芸者衆が登場すると必ず流れる音楽も楽しめた。三十郎が拷問される蔵で、音が反響しているのには驚いた。今回初めてそんな音になっていることに気がついたのだ。

映像ももちろん、きれいである。ちょっとスクリーンの近くで見たせいか、デジタル臭さが気にはなった。もう少しフィルムグレインを残しても良かったんじゃないかなーと。あまりにぺかぺかにきれいで、VTRで撮ったものみたいに見えたりしたからだ。

 

リマスターについての話はこれぐらいにして、この「お話し」における最大の悪人は誰か、ということを考えたりした。仲代達矢か? 馬目の清兵衛? 新田の丑寅? 酒屋、絹問屋、あるいは番太か?

これはどう考えても、主人公の桑畑三十郎その人以外はないと思うのだ。

抗争を続けて町の活気を奪った二つの組を互いに争わせて自滅させるという作戦は、適当に突っ込んでいって切りまくるみたいな頭の悪さがなくてとてもいいのだが、結果としては内戦レベルで人が死に、町をゴーストタウンみたいにしてしまっている。

もちろん黒澤明先生の意図は、死んだのはヤクザのみであり、町の人は隠れているだけということなのだろうけれど、わかりやすく図式化して登場人物を絞ったため、ほぼヤクザしかいない町が全滅したように見えるのだ。

「これでこの町もきれいになったぜ」

とか言って去って行く三十郎だが、彼の正義感が強すぎ、潔癖症が行きすぎて、水清ければ魚棲まず、結局町を一つ滅ぼしたという結末に見えるなあと、そういうことを思ったのであった。ヤクザが多少悪事を働いても、町の経済を回してればよかったんじゃないのかな、と現代人としては感じてしまう。両方の組を適度に生殺しにして、弱体化させつつも存続させておくのが現実的な解決であり、桑畑氏が取るべき最善の着地点だったと思う。

なんて書いたけど、ダメな映画だとかトンデモだとか異常だとか言いたいわけではない。好きです、大好きです、この映画。書いててまた見たくなった。