書き逃げ

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『天気の子』晴れ女? 雨女だろ?

公開二日目に、ネット上のネタバレを被弾したくなくて鑑賞。

全く俺向けの作品では無かった。面白いとは思えなかった。これから書くのは辛辣なことになる。作品そのものもさることながら、こうしてしまった作り手について書くことになるだろう。ネタバレ有りです。

この作品は俺が思うところの“セカイ系”そのものだった。主役の身(および周辺)に起きたこと、さらには感情が“全世界”に直結し、影響を及ぼすという“世界観”。それは主役、いや作り手が考えている“世界”が狭いせいでそうなるのだろう。もちろん、セカイ系は「ジャンル」として認識されているので、分かっていてそういう世界観を採用することはあるだろう。だが、今作においてその選択は的はずれだと思った。表現手法にあってないと思った。もっと簡略化した手法(あるいは簡略化しているように見えてめちゃくちゃ手間暇がかかるフレデリック・バックとか高畑勲かぐや姫の物語』的な)、あるいは(低予算の)実写ならしっくりくる内容だと思う。宇宙からの俯瞰映像を美麗に見せられるほど、「この雨が降り続く状態が現実なら、どれほどの被害が世界的に起きるのだろう」ということが気になって仕方なくなるからだ。全然そこを考える気がないなら、あんな映像はノイズに過ぎない。……ということを細かく書くと長くなるのでもう止める。

書きたいのは、「陽菜は“雨女”と考えた方がずっと話の構図が飲み込みやすいんじゃないか?」ということだ。これ、俺が知らないだけでみんな当たり前にそう考えてるのかな?

「世界の形を変えてしまった」
という、予告編にも使われているセリフがある。劇中では重要なセリフだ。冒頭でも使われ、クライマックス後にも繰り返される。
しかし、今作中で彼らは世界の形を変えてはいない。というか、世界の形を変える決断が出来たかも知れないところで、「変えないことを選んだ」のだ。真逆なのである。
元々あの世界は雨が降り続く異常な状態になっていた。“晴れ女”の陽菜は限られた範囲で晴れをもたらすことが出来る。しかし、それを続けていたら彼女が何らかの理由で衰弱し、ついには「人柱」として天に召され(?)、“世界”(=都内近郊)に晴れが戻ってきたわけだ。
雨が降り続くのは異常気象ではあるが、今作中では、何らかの作為(人為、あるいは魔法とか呪いとか)によって引き起こされたものとしては描かれていない。そういう説明はされていないし、作り手もそのつもりなのだろうと思われる。
しかし実際のところ、天気は陽菜の精神状態を反映したものとして描かれている。陽菜、帆高、凪が警察から逃げ、泊まる場所も無く、街をさまよっているとどんどん気温が下がり、8月なのに雪が降り始める。
これ、陽菜が降らしているとしか思えないだろう。つまり、彼女は“雨女”なのではないか。

廃ビルの屋上にある社で彼女が得たのは雨女としての能力(あるいは“呪い”)だった。ゆえにそれ以降、彼女がいる都内はずっと雨が降り続くことになった。
しかし、念じることで一時は雨を止めることが出来る。降らせているのが自然な状態で、止めるためには“力”を消耗するのだろう。それゆえ、帆高に出会って「晴れさせ業」を仕事にしてから彼女の衰弱は進んだのだ。
そしてついには彼岸に渡ってしまった(雲の上が彼岸だということは劇中でも触れられている)。陽菜が居なくなったことで東京も久しぶりに快晴になった。
ところが帆高が彼女を連れ帰ったことで、ずっと“雨女の呪い”があり続ける世界になってしまった。そう考えれば、彼が「世界の形を変えてしまった」というのは辻褄が合うのだ。

これを読んで、
「すごい! 物語に深みがある!」
と思うのは違うと思う。これは単に、作り手が“晴れ女”という能力がなんなのか、“雨女”との違いはなにか、劇中でいう「世界」はどんな場所なのかを突き詰めて考えずに作った緩さゆえに起きたことなのだと思う。エモさ至上主義で映像と音楽を繋ぎ、いい話っぽいものを作ったせいだろう。
もちろん今作中、彼女が“晴れ女”であるという確証が述べられるわけではないので、「設定ではそのつもりでした。帆高が“晴れ女”と思い込んだだけで、実際は陽菜は“雨女”なんです」みたいなことを制作者が言い出す可能性はある。

以下はおまけ。
とはいえ、これはまだマシなほうの作劇上の「下手くそさ」だと思う。もっと根本的なのは、
「帆高が陽菜を取り戻す上で、何も犠牲を払ってない」
ということだ。雨が降り続くことで彼が「個人的に、決定的に」辛くなる、痛みを感じることが何かあっただろうか? そりゃー陽菜ちゃん帰って来るなら雨ぐらい降らせるでしょうよ。そもそも、雨が降ることに彼らは何も責任ないんだから。「お前、雨降らせやがって!」って誰かに怒られる可能性、あったか?
何か辛い決断したように見せるため、警察から逃げる展開を入れ、そのために拳銃の件を入れたりしてるが、それは本筋とは無関係な、「なんか大変なことを乗り越えてやっと会えた」風に見せるための目くらましだ。というか、ためにする展開というやつだ。ひどいもんだ。